僕は忘れない、あの日のことを

140字では伝えられない。

宇宙の中心にあるもの

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12月31日公開というチャレンジングなことをした映画『MERU』を見ました。

まあチャレンジングなのは公開日だけではなかったわけですよ。

 

MERUは、未踏峰だったヒマラヤ山脈のメルー中央峰、通称「シャークスフィン」と言われる標高6250mの山に挑む三人の登山家のドキュメンタリー。ドキュメンタリーという点が大切で、クライミングシーンにCGは一切ない。要は全てセルフィで撮っている。撮影者はジミー・チンとレナン・オズターク。そのため映画の迫力は圧倒的で、挑むもののの巨大さ、自然の美しさ雄大さを余すところなく映し出している。まあ広告ポスター写真も出来が良すぎるからわかるでしょ。あとはとりあえずこれを見てくれ。

 


12.31公開 映画『MERU/メルー』未公開シーン 特別ムービー

(高いところが苦手なのでめっちゃ身が竦みました)

 

登山は多くのものを与えてくれる。しかし安全が保証できない以上、登山は正当化できない。

この映画の良いところは単に登山のことを美しい映像で流したということではなくって、三人の挑戦者――コンラッド・アンカー、ジミー・チン、レナン・オズタークの三人――がそれぞれ迷いや躊躇いがありながらメルーに挑んでいくという、人間を描いた物語であるところだ。コンラッドは師も友人も山で失っているし、ジミーはメルー兆戦前に九死に一生を得ていて、自信を失っていた。

 

その中でもレナン・オズタークは壮絶で、挑戦の半年前に大怪我を負い、元のように動けるかどうかさえわからなかった。その上、今後は高地では脳梗塞になる可能性があるという。コンラッドやジミーとしても、そういう不安要素を抱えた人間をチームに加えることで、チーム自体が危険になる可能性も考慮しなければいけない。それでもレナンはメルーに登ることを諦めないし、二人もそれを止めようとはしなかった。

 

ジミーはインタビューでこう話す。

登山家やプロの写真家として人生の大半を山に捧げてきた私は、いつも思っていました。高地でのビッグウォール・クライミングの過酷さを、観客の皆さんが本能的に感じ取れるような映画を作りたいと。そこにはどんな見返りがあり、どんなリスクや犠牲が伴うのか、少しでも多くの人に知ってもらいたかったのです。
それと同時に、情熱の追求は必ずしも美しいものではないということも伝えたかった。そこには葛藤や、迷いや、苦しい妥協が溢れている。

 

個人的には、何故山に登るのかという問いに対する答えをこの一本の映画に収めようとしているのではないか、というように感じた。大きなリスクや犠牲があり、葛藤や迷いがある中で、どうして誰も登頂できなかったほど危険で困難な山へ登ろうとするのか。

 

きっと彼らは自分の能力や精神力・仲間への信頼を厳しく問われる山との戦いの中でこそ、自身の能力や絆に確信を持つことが出来るし、「いま生きている自分」を実感することができるのだろう。困難であればあるほど己の限界が強く試され、打ち勝つことが出来ればより自信を深めることが出来る(決して過信ではなく)。

逆に失敗は自分の能力への思いの揺らぎを意味する。でも山で失ったものは山に勝つことでしか取り戻せない。だから彼らは何度でも挑戦するのだ。

 

生きる、それは戦うこと

『僕たちは、どうして将棋を選んだんでしょうね』

『さあ……ただ、私は今日はあなたに負けて、死にたいほど悔しい』

 

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そういうわけで映画『聖の青春』を見ました。とても良かった。

 

聖の青春は村山聖という棋士の人生を描いたノンフィクション。映画はそれを元にしたフィクションですね。わりとエピソードや対局(違う棋戦の棋譜を使っていたりする)に改変がありますね。そういうわけで原作も読んでくれ。深夜1時43分まで村山聖と戦い抜いたのは、本当は丸山忠久というストイックでミステリアスで健啖家の男なんだ。

 

5歳でネフローゼになり、その入院中に将棋と出会った村山聖は、将棋にのめり込み、ついにプロ棋士となる。才気抜群で西の怪童と称された彼の前に立ちふさがったのが、東の天才、羽生善治だった。負けたくない、名人になりたい、その思いで強くなる村山だったが、その矢先膀胱癌をも患ってしまう。命のタイムリミットが迫る中、村山は14度目の羽生善治との対局に臨む。『羽生さんが見ている海はみんなとは違う』その海を共に見ることは叶うのかーー

 

という感じです。

 

原作は師匠の森信雄との絆みたいなものが話の主流だと思うのですが、映画は羽生善治とのライバル関係がメインストーリーとして描かれます。主演二人の話通り、これに一番近いのは恋愛物ですね。村山聖は少女マンガが好きなシャイボーイなので、こっちがヒロインっぽい。ただ二人の会話シーンって考えると実はほとんどないんですよね。ないのですが、初対局から大一番の『75飛車』、そして最終局と所作や表情が変わっていく。関係性の深化がそういうところに出ているのですよね。

 

『俺かてなあ、俺かて命かけて……』

『お前のどこが命かけとんじゃ!』

 村山の「命を懸ける」という言葉の重さは尋常ではなくって、本当に命を削って将棋を指している。きっと病と闘い続けてきた彼にとって、負けることは死ぬことと繋がっているからだ。だから勝ち負けにとても敏感で、負けたけど次がある、みたいな考えを徹底的に退ける。でも将棋の恐ろしいところは、どんなに優勢だったとしても最後の最後で間違えばあっという間に逆転してしまうところにある。

 

強くなってとうとう羽生と互角に渡り合えるようになる、と思ったところで癌で手術が必要といわれた村山にとって、それは終盤のそういう落手に近い感覚があったのではないか。将棋の世界ならその落手は自分が悪い。しかし病気はそうではない。運命としか言いようがないものが未来を闇に閉ざすのは、仕方ないというよりただ悔しかったのではないだろうか。物語の終わりの方で、将棋年鑑のアンケート(実在します)で「神様に一つだけ願いにかなえてくれるとしたら」という問いに対する答えは、その悔しさを表しているように思えた。自分の人生も運に左右されることなく、自分の力だけで切り開きたい。そして将棋界は実力が全ての世界である。名人になりたいというのは夢ではなく、きっとその表象なのだ。

 

 

 ◆

村山聖の方は実際の映像をほとんど見たことがないので判別できませんが、東出昌大は完全に羽生善治でしたね。めっちゃ似てるからこそ身長が10cmくらい? 大きいとこがすげー違和感になるんですよ。羽生さん身長伸びた?

 ちなみに一番これは羽生先生か?ってなったのは村山先生が「羽生さんはおいしいものは食べ飽きてるだろうから」と冗談を言ったときに「そんなことないです」って笑うシーンです。これはマジで羽生先生が言いそうな感じでしたね。あーこういう話し方するよなあみたいな。見る人が見たら分かる。

 

そういえば広告はトップのこれが一番好きですね。やっぱり村山聖は戦う姿と意志ある表情かなと思う。

ちなみにタイトルは『将棋界の巨人 大山康晴 忍の一手』の章タイトルから。69歳A級棋士としてなくなった大山も晩年は癌と闘病しながら死ぬまで指し続けた棋士ですね。

 

映画の中に出てくる荒崎六段というのはこの人が元ネタですね。新車の中で村山九段に嘔吐されたのは佐藤康光九段ですけど。登場人物を減らすためにエピソードをまとめてるんでしょうね。

 

深夜1時43分までかかった激闘とは本当はこちら。

先崎学六段(当時)「無神論者の僕だが、あの状態で、あれだけの将棋を指す奴を、将棋の神様が見捨てる訳がない。本心からそう思えてならなかった」 | 将棋ペンクラブログ

 

こっちは追悼文。絶対に読んでくれ……

先崎学六段(当時)「彼が死ぬと思うから俺は書くんだ」 | 将棋ペンクラブログ

 

 

聖の青春 (講談社文庫)

聖の青春 (講談社文庫)

 

 

 二海堂くんは村山九段を元に作られた人物なのです。

 

また来る日まで。(長崎旅行記:4日目 佐世保)

佐世保というか九十九島に行きました。

九十九島リアス式海岸が生んだ群島。本当は208の島があるそう。真珠の養殖とかマリンスポーツとか、色々あるみたいですね。観光ではこんな感じで船で島と島の間を縫って遊覧してぐるっと見てまわります。(馬鹿だから高いところにいる)他には、近くの山に展望台があるそうですね。これは時間がないので無理です。

しかし本当に晴れてよかった。

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そういうわけです。(どういうわけだ)

50分で一周するのですが、本当にあっという間でした。美しかった。

見ながらちょっと思ったのは、この光景はきっと満潮と干潮で全く違う姿を見せるのだろうなあということです。全然調べてなかったですが、光景から察するにたぶん潮が引いてるときに見たと思うのですが、確認するべきでしたね。一年で一番潮が引くときが一番綺麗なのかなあという気がします。気だけです。

 

その後海上自衛隊佐世保史料館、セイルタワーへ。でもここは館内撮影禁止でした。残念。その上時間が本当になかった。2-7階と展示があるのですが、3階と4階で10分でしたもんね。そういえば、7階からの景色は港も一望できてちょうど大きな船も停泊してるしとても良い光景で、これも本当に撮影したかったのですが、展示物撮影禁止ではなく館内撮影禁止なので、撮ってはダメなのではないか、みたいな結論に至りました。感想を書くにはまた行ってちゃんと見る必要がありそう。うーむ……残念。

 

そんな感じで時間切れ。佐世保から高速バスで博多へ帰りました。

 

総括すると全体的に時間が足りなかったという感じですね。せめてあと三日くらいは欲しい。あとは一日目と二日目はやや天気が悪かったのが残念でした。平戸・五島列島も手付かずで残っているし、あと三回くらい行っても楽しめそう。というか、今回と同じ旅程でも別の楽しみ方ができそうなのが凄いところです。具体的にしたかったことは前三日にも書いてるしまあ良いでしょう。というか親の実家があるから、小学校の頃は何度も長崎へ行ったことがあったのですが、それでも自発的に観光に行くとそのときよりなんかずっと印象深いし楽しかったですね。長崎はいいぞ。あと、連れ合いの方にも計画の頃から色々とお世話になりました。一人だったらこんなに楽しめなかったでしょうね。

あとはそうですね、長崎はご飯が本当においしかった(超重要) 特に魚です魚。

国内旅行でご飯代はケチらないほうが良いです。これはマジですよ。

人間の大きさ 自然の大きさ(長崎旅行記:3日目 池島)

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三日目は朝クソ早くに起きて池島へ。池島は昭和27年から平成13年まで石炭が掘られていた、軍艦島と似たような感じの炭鉱島で、周囲4kmの島に最盛期は8000人近くが住んでいたんだとか。今の人口は150人くらい。そう、軍艦島と違いまだ人が住んでいます。さらに、つい最近(といっても15年前ですけど)まで稼動していたため、ガイドしていただけるのは実際に島に住んでいた方で、話がめちゃくちゃ面白いんですよ。絶対に行ってくれ。

長崎市から行く場合、海沿いの国道202号線をずっと北上していくのですが、これがまた最高のルートでしたね。確かに遠いんだけどあまり気になりませんでした。四日間、ずっと公共交通機関を使ってきたのですが、ここは車やバイクや自転車で来るべきところですよ。最高。特に夕陽が丘そとめという道の駅が途中にあるのですが、これ画像検索してもわかる最高さです。バス移動をこれほど恨んだことはない。というかさっきから最高しか言ってない。語彙がなさすぎました。

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右端に見えている島が目的地の池島。人工物があるし人が住んでるんだね~とか連れ合いの方とほのぼの話してたらあれが目的地で大爆笑でした。真ん中に見えるのは大角力(おおずも)。中央に穴が開いている。びっくり。

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大瀬戸港へ到着するも、船は一時間後(しかし次のバスに乗ると今度は間に合わないのだ!)、で最寄のコンビニは徒歩35分。田舎に来たという感じでしたね。海は綺麗でした。

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そんなこんなで船で池島へ。航路は既に最高でした。

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海からの全景はこんな感じ。

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上の写真で一番手前にある建物群。公営住宅で、今でも人が住んでいます。そういえばこの港、ちょっとした湾になっているのですが、元は大きな淡水池で、それが池島という名前の由来になっているんだとか。石炭を搭載する船を停泊させるために、その一部を海に繋げて港にしています。だからここのコミュニティバスの停留所名は「池の口」。

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上はアンテナあるし人が住んでるのだと思うのですが、下はもう腐食して欄干が崩壊しています。やっぱり崩壊と生活が共存しているのが本当にシュールというか、不思議な感じでしたね。

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港の周辺だとこれも驚き。桟橋が崩壊したそうです。誰も困らないし、そのまま放置されているんだとか。凄い光景だ。

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港の周辺をちょっと見た後は炭鉱案内。わくわく感!

ちらっと上に見えているのはインドネシア語かな? 閉山後数年間、池島炭鉱の技術を海外に伝えるため、主に東南アジアから人を招いて研修を行っており、僕たちが案内されたのはその名残。実際の炭鉱は地下650m! に広がっています。クソ広いので、炭鉱の中を電車といわゆるオートウォークみたいな自動床……マンベルト(映像は人を輸出してる光景みたいだった)で移動していたそうです。

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石炭を掘る機械。

掘る部分のサイズはもう忘れてしまったのですが、120cmくらいはあった気はします。

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長さは12m。上の奴と同じものが向こう側にもついていて、ガリガリやります。いちいちスケールが巨大で感覚がおかしくなりますね。炭鉱内を長さ12mある巨大な物体を移動させられないので、別の部分を掘るときはこれを一回全部分解していたそうです。そして運んで現地で組み立てます。全部ボルト締め。つくづく凄い世界ですね。

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あとは説明しないから、ただ良さを感じてくれ。

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ところで、池島炭鉱では6人の殉職者が出たんだそう。とても少ないらしい。「技術を輸出する」ということをやっていたのだから、これは本当なのでしょう。でも一般的に言って、6人の殉職者が出たら相当な大事件だと思います。なんというか、炭鉱というのは本当に危険で、酷い話ですがそういう意味でもスケールが大きいのだなあと思いました。池島の隣の島、松島では「炭鉱が水没した」(炭鉱島は海の下掘ってますからね)という、どれくらい被害があったのかにわかに想像がつき難いような事故があったそうです。

 

この後地上に戻って島の中を散策へ。

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上は一帯に立っている社宅の一つの屋上からです。階段を登る途中には生活もありました。

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これは小学校と中学校。多いときは1800人の子供が通っていたそうだが、今は島に子供は二人。

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第二立坑。トップの画像の建築物で、近づくととても巨大でびびります。昔はここから地下650mまで降りていたそうです。やや手前は開けた土地で、ゴルフをしていたんだとか。

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ゴルフ……?

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錆が良い。ちなみに最初に写真を撮ったあたり、上の手すりが崩落寸前でごく普通に危険。怖すぎて真下まではいけませんでした。

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八階建てのアパート。エレベータとかはない。

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かわりに裏に行くと四階部分にこんな感じで橋がかかっています。坂に建っているのですね。

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海水を真水にかえる設備。池島には淡水がなく、これがないと生活不可能だったそうです。8000人の生活用水をすべてまかなう工場とは。

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水は地上のダクトを通っていく。珍しいですよね。

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そんな感じで、ぐるぐる回って港へ戻ってきました。最後に、中央青緑の機械は石炭を船に積む機械らしい。つまり、あの機械の高さくらいまで石炭がうずたかく積まれていたのだとか。本当か。

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もっと色々写真を載せたいと思ったのですが、気力と紙幅(嘘)の関係上この辺で。なんか雑多にあったものを並べて書いただけの雑ブログ記事ですけどまあ良いでしょう。百聞は一見にしかず的なね? まあなんというか、僕もこの島をきちんと語る言葉を持ちませんし。うーん……幽玄という感じですね。4km四方の島に8000人が住んでいたのだから、この島はかつて、僕が想像するよりずっとごちゃごちゃしたコンクリートジャングルだったはず。炭鉱では人間の技術の粋を見た気がしますが、この島にはそれすら飲み込む自然の生命力がありました。

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ありがとう池島。

 

その後船で佐世保へ。ここは朝が早かったのでまたしてもごくふつうに寝てしまいました。泊まる場所をその場で決定してちょっとウロウロしました。で、ご飯をどこで食べるか散々苦しんだ挙句、一ポンドのステーキ食べました。おいしかった。(こなみ)

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雨・平和・イカ(長崎旅行記:2日目 長崎市内)

朝バスで雲仙から長崎市内へ。移動中の景色についてはまあごく普通に寝ていたから撮ってないですよね。段々畑があったのだけは覚えています。

 

そして市内へ。長崎市といえばこれですね。路面電車。運賃は一律120円、一日乗車券も500円というはちゃめちゃリーズナブル公共交通機関で、その上だいたいの観光地を押さえており、これに乗るだけでだいたいなんでもできます。利用客も多いけどそこはご愛嬌。

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まずは平和公園の方へ。小学生以来です。大通りのすぐ近くなのに、とても静かな公園で、それが印象深かったですね。静謐な場所でした。というか、ここは元々刑務所だったのですね。基礎のところしか残っていなくて、ぼんやり古代の遺跡みたいなものを思い出しました。一瞬でそうなったというのは本当に凄絶な暴力です。あと、これは完全に余談ですけど、ふと横を見ると、平和祈念像の前で連れ合いの方が静かに手を合わせていて、真摯な方なのだなあという思いを新たにしました。静かな祈りはきっとこの公園を象徴する姿。実際それが公園内で一番印象に残りました。

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そういえば、この平和公園(実は平和公園というのは周辺の資料館や爆心地、運動場等をひっくるめて言っているらしく、平和公園の中で平和祈念像がある区画、と言った方が正しい)、各国から贈られたモニュメントがあるんですよね。で、

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このソ連の像をはじめとして、チェコスロバキア社会主義共和国、東ドイツ中華人民共和国ブルガリア人民共和国、キューバ社会主義国家のモニュメントがまとめてずらずらあって、謎の興奮がありましたね。うーむ東西冷戦の賜物だ。

 

と、妙なところに盛りあがりつつ浦上天主堂へ移動。

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でかい(確信)

浦上キリシタンは江戸末期から明治にかけて、禁教政策に対抗したため一村3000人以上が全員流刑のうえ棄教させられるというめちゃくちゃな処罰を食らっているんだとか。さらにここは爆心地のすぐ近くで、1945年には12000人いた信徒のうち、9000人は亡くなったといわれているそうです。悲劇を何度も乗り越えた土地なのですね。

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浦上天主堂の像と壁と思しきものが残されていました。でも掲示がなくて全然わからないんですよね。最初首のない像がたくさんあってびっくりしました。

天主堂の中は普通に教会なので、撮影禁止、お静かに。静かで、荘厳な教会です。また、被爆マリア像といって、崩壊した旧浦上天主堂の中で偶然見つかったマリア様の顔の部分が飾ってあります。焦げ、目を失ったマリア像。何か胸に来るものがありましたね。

 

と、この辺で雨が降り出しましたね。降水確率は100%だった。悲しい。

築町の方まで延々移動して長崎名物と噂のトルコライスを食べました。ニッキー・アースティンというお店で、着いたのは2時半くらいだったのに混んでました。凄いお店だ。トルコライスの種類が200種類くらいあるとんでもないお店(メニューは撮影禁止だった)で、選ぶのが大変楽しい。あと店員さんが、お冷が少しでも減ってると絶対に水を注ぎにくるサービス精神旺盛なお店でした。これ本当に減ってると見るや注ぎに来るので、ここだけで一リットルくらい水を飲まされた気がします。もういいよと言っても来る。いったいなんなんだ。トルコライスはめっちゃおいしかった。

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出るとはちゃめちゃに雨が降っていたので近くのアーケード街に避難。長崎に行った日はちょうど長崎くんちという大きなお祭りをやっていた(本当にたまたまで旅行を始める前日にやっていることを知った)のですが、その一団がやっぱり雨を避けてアーケードにいました。これ、庭先回りというイベントだそうですね。

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雨を避けてシートを被っている宝船。長崎くんちといえば龍踊りだけど、龍は見ることが叶わなかった。それから商店街でたまたまこんなものを見つけてちょっと見て、波佐見焼きいいよねみたいな話をしつつ雨が小降りになったので出島の方へ。

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出島(今は完全に陸続き)は入場料が必要なのだけど、どこに行ってもチケットを渡す人がおらず、本当に謎だった。普通に入ろうと思えば入れるのでは。あと出島模型にお金投げるのはやめろ。絶対なんのご利益もないぞい。

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ここも展示が色々あって逐一報告すると僕の気力が死んでしまうのですが、個人的に一番面白かったのがこれ。

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これは英和辞典。見てください。犬ーbitch。誤解を生みすぎでしょ。他も面白いので、あとは行ってください。わかりましたね?

 

出島ワーフに行ったりしていたら、そんなこんなで暗くなったので退散して宿へ。雨は止まなかった。辛い。

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夜はむつ五郎というお店でイカを食べました(活きいか一匹2800円で何かを察しろ)(伊勢海老一匹7800円!) イカはまだ動いていて、最終的に足が皿の外に出て逃げようとしている感じになっていました。連れ合い曰く「目が合って若干かわいそうになる」

カウンター席だったのですが、このお店凄くて、何が凄いってカウンターの目の前に生簀があるんですよ。上は鏡張りになっていて、生簀の中が見えます。凄い。

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いかは刺身を食べるとお皿を一度下げて、残りの部分を別の料理にしてくれます。今回は天ぷら。一匹まるごと食べ尽くすと、二人で一杯でも結構な量になりますね。

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おいしかったです(こなみ)

本当は稲佐山で夜景を見たかったのですが、雨と時間的な問題があって断念。悔しいですね。

 

グラバー園のほうとか行ってないのですよね。行きたかった。どうも大浦天主堂下ではなくて、石橋の方から行くのがお勧めらしいですよ。

稲佐山で100万ドルの夜景を見る。

長崎くんちも晴れの日にちゃんと見る。今度こそ龍を見る。

・三菱造船所へ行く

 

他にもたくさんありそうです。長崎市内は見るべきものが多すぎます。本当に雨が惜しまれますね。ただご飯はめっちゃおいしかったです。店の名前挙げてるのは超お勧めだからですよ。絶対に行ってくれ。

というわけで二日目は終わり。

地獄内は危険です(長崎旅行記:1日目 島原半島)

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10月7日~10月10日にかけて、長崎へ旅行していました。というわけで、四回くらいに分けて感想を書こうかなと思います。本当に色々あった。また行きたいですね。まだまだ見てまわるところがたくさんあるのですよ。みんなも行ってくれ。一週間くらいかけると良いぞい。

 

 

一日目は大牟田から船で島原へ。高速船で50分くらい。雄大な山にゆっくり近づいていく感じでわくわく感がありましたね。席は写真のデッキと、船内にもあるのですが、酔い的にも景色的にも外が良いような気がしました。たまに顔に飛沫を感じますけども。

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12時10分についたところ、熊本からの船で13時に着くと言っていた連れ合いの方がやっぱり着くの13時半くらいだったわといきなり注意を欠陥(たいへん失礼な表現)させていたため、時間がかなり空いてしまいました。ということでレンタサイクル(高速船に乗ると特典で無料だ!)で島原城の方へ。自転車で15分くらいかかるから、僕も僕でめっちゃどたばたでしたね。頑張って漕ぎました。

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雰囲気ある。それに結構大きいですね。天守は上ることができるのだけど、時間が全くないから眺めただけでした。お前何しに行ってるんだ。

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二の丸(向こうの石垣)と本丸(立ってる場所)の間の堀は水が抜いてあり、降りて間を通って島原駅の方へ抜けていくことが出来ます。これ、来た時は全く分かりませんでした。そして降りて上を見上げるとやはり大きいですね。個人的には島原城はこの道が良いです。

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その後は島原の武家屋敷へ。こっちも入れるところは全部中に入りたかったのですが、時間の都合上でいくつかしか見られませんでした。何しに行ってるんだ。でも水路が中央を通っていて、家々が並ぶ風景はとても趣がありますね。水も綺麗だし。ここだけでなく、島原は湧水が多いそうです。

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さて、ということで頑張って自転車を漕いで合流し、雲仙へ。雲仙は普賢岳妙見岳、国見岳と三峰あって、加えて普賢岳から派生して、直近の噴火で出来た雲仙最高峰の平成新山があるという感じ。平成新山以外は登ることができるそう。まあ温泉宿街があるところから、普賢岳は片道3時間以上はかかりそうです。でも近くの小学校は、小学校から普賢岳の頂上まで歩くらしい。軍隊かよ。僕たちは着いたのが昼過ぎだから、暗くなるし普賢岳は無理です。一日泊まって二日目とかなら行けるかな。今度は全部制覇したいですね。

 

宿から送迎タクシーで途中まで送ってもらい、妙見岳は登りました。30分くらいでロープウェイがあるところまで登れる(車でも行けます)のですが、わりときつい。勾配が。そしてロープウェイで頂上付近へ。え、ロープウェイの写真とかはないのかって? 僕高所恐怖症なんですよね……

そしてロープウェイで登った先、山頂付近は雲の塊だった。残念。心の目で見ろ。

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平成新山(虚無)

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その後、降りてきて雲仙地獄へ。

これは(新)八万地獄。人間の八万四千の煩悩から来ているらしい。108ではない理由がわからなかった。この日は山の方へ煙が流れていたのですが、翌日の朝は風向きが変わって道路の方にガスが行っていて、歩くのも大変そうでした。硫黄臭めっちゃある。あとですね、この辺一体地熱が凄いから、歩いてるところも触るとめっちゃ熱いんですよ。写真で伝わらないのが残念です。行ってくれ。

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そして大叫喚地獄。奥に見える案内はガスの影響か完全にくすんでいました。地獄名の由来は、ガスの噴出時に鳴っている低い音が、人々の呻き声に聞こえるから、だそうです。実はガスの噴出場所は長い年月をかけて移動しているらしく、以前はもっと勢いがあり、低音だったのかなあという気がしました。

それからトップに乗せた「地獄内は危険です」という字面だけ見るとめちゃくちゃ面白い掲示を見つけたのもここら辺ですね。地獄は環境省の管轄だそうだ。『鬼灯の冷徹』の彼らも、実はシン・ゴジラの尾頭課長補佐と勤務先が同じなんですよ。

そんなこんなで暗くなったので宿へ帰還。ご飯食べて温泉に入って寝ました。

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おいしかった。

温泉も最高だった。最高だったから朝も入った。(小学生並)

 

次回行くなら晴れてる日に(超重要)普賢岳に登って見たいですね。それから、連れ合いの方と行くかどうか散々に悩んだ雲仙岳災害記念館にも行ってみたかったです。南島原の方は電車がなく行くのも大変なのですが、天草との関係が深いし、天草の方を見るなら一緒に見たほうが良いのかもしれませんね。原城跡とか。

 

雑記(マルドゥック・アノニマス二巻までの内容を含む)

記事を書くのだいたい一ヶ月ぶりなんですよね。本当は9月の三連休あたりで長崎へ旅行いく予定だったので、それに合わせてちょっとした旅行記みたいなのを書こうと思っていたのですよ。ところがふぁっきん台風によって延期を余儀なくされてしまい、一回このタイミングで書こうと思ってたのがふいになったせいか、ちょっとやる気が失せていました。10月7日から今度こそ旅行予定なのですが、またしてもふぁっきん台風がやってきましたね。しかもめっちゃでかくない? 905hPaって何。今年多いですよね、台風一家。(意図的な誤字)

 

どうでも良い話なのですが、キーボードを買い換えました。なんか前のキーボードは勝手に特定のキーが連打されるようになってしまい、キーボードの掃除からドライバの再インストールまで色々やったのですが、直りませんでした。買い換えてからPC前で妙にテンションが上がっており、今日もここまでで400字弱とたいへん絶好調です。いつもは1000字を超えるとだいたい力尽きるんですけどね。お金を使うと気分が高揚する。やはり散財は神。ついでにマウスも換えました。

 

 

まあこの一ヶ月の間全くの虚無だったわけではなくて、宮内悠介とか今読んでる『戦争は女の顔をしていない』とか、まあちょくちょく本を読んでいました。でも映画はシン・ゴジラが最後。世間では君の名はとか聲の形とか色々やってるのですが、どうにもね。なんだろうね。

 

というか、まだ全然序盤のアレクシエーヴィチはともかく、宮内悠介の『盤上の夜』とかは私の趣味関心的にも本当はブログで感想をがっつり書けよという感じなんでしょうが、上記の通りいまいちやる気がなかったのと、なんか適切な表現が全く思い浮かばなかったのですよね。これは『ヨハネスブルグの天使たち』もそう。自分の中では絵画の感想を書くのが難しいのと同じようなイメージです。わかってくれ。北方謙三『楊令伝』的に言うと

岳飛は、めぐるましく動く、崔如の指を見ていた。赤だが、濃淡のある三枚の紙が、実に巧みに組み合わされ、見事な花が、崔如の手の中でできあがる。それを見事としか言えない自分の無骨さが、岳飛には情けなかった。きちんと言い表せる、きれいな言葉が、ほんとうはあるはずだった。

これです。

 

 

さて九月に読んだ本といえばマルドゥック・アノニマス二巻ですよ。というかこれ絶対三巻じゃ終わらないですね。元の構想らしい全八巻構成だと現在の登場人物の九割以上は死んでそう。

 

マルドゥック・アノニマス二巻、主人公はウフコックなんですけど、物語を動かすのは徹底してアウトロー集団である「クインテット」とそのリーダーである「ハンター」です。ウフコックはただ観察者であり、イースターズ・オフィスの面々もそう。

 

作中ではハンターとウフコックが似たような能力を持つことが何度も描かれます。共感能力を用いて相手を安心させるウフコック、相手の心を確実に損なうハンター。自身の分身を作り出して情報を収集する潜入手法。どちらも同じように能力が使えるが、その使用方法に違いが生まれるのは「濫用」の有無、ただ一つでしょう。これは良心と言い換えても良い。ウフコックがハンターに共感を示すようになっていくのは、一巻で言われているように、ウフコックがウフコック自身を濫用しているから、ということなのでしょうね。ということは、ウフコックはこれからもハンターに入れ込んでいってしまうと予想しちゃうわけで、ガス室へ向かう心境というのは最後の良心という感じがして今からとても辛いものがありますね。

 

そういえばもう一組これは対比された存在ではないかなと思うものがあって、それが「ホスピタル」とルーン・バロットです。バロットを連想させる黒髪と黒い瞳で、ただ無表情でうつろな「ホスピタル」。僕はこれは「イースターとウフコックに出会わなかったバロット」じゃないかなあと読んでいます。

 

選択するんだ――生存の選択。その権利は君にある。……

君は生き延びた。復讐でも人生のやり直しでも何でもできる。金もたっぷりある……というか、これから作るんだ。どう、わかるかな?

君は一人でもあそこから出ていける。君には検診もメンテナンスも必要ない。君は二度とこのゲームに関わることなく、自分だけの世界を築いて暮らしていけるだろう。必要とあらばその能力で、大いに稼ぐことも出来るに違いない。

 

ホスピタルは結局ハンターについていくことになります。イースターズオフィスに従うバロットそっくり、ホスピタルがハンターに強い共感を抱くところもバロットとウフコックの関係そっくりです。

 

ただ一つ違うところは、まさに良心の存在であり、濫用するかしないか、という一点です。バロットも『スクランブル』で過ちを犯したけれど、そこから立ち直り能力を完全に自制し、そして自立していきます。ハンターはその能力を利用(濫用)するために、ホスピタルが自立することは許さないでしょう。ということで、ホスピタルはこのあと自分の能力を「濫用」するようになるのではないかな、と踏んでいて、バトルが増えそうな三巻(以降)では、バロットと対峙するシーンもあるのではないかなという勝手読みをしています。これ当たったら褒めて。

 

そんな感じです。はやく三巻を出してくれ。