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僕は忘れない、あの日のことを

140字では伝えられない。

将棋を観るという趣味

将棋

渡辺明『頭脳勝負――将棋の世界』を読みました。もう10年近く前の本なんですねえ。

 

棋士は将棋を指すことによってお金をもらっていますが、これはプロが指す将棋の価値を認めてくれるファンの方がいるからです。スポーツ等と同じで、見てくれる人がいなければ成り立ちません。(中略)

確かに、将棋は難しいゲームです。しかし、それを楽しむのはちっとも難しくないのです。「なんとなく難しそう」というイメージで我々のプレーがあまり見られていないとしたら、残念なこと。というわけで、将棋の魅力を多くの人に伝えたい、と思って本書を書くことにしました。

将棋界の第一人者である渡辺明が、将棋初心者向けに将棋観戦の面白さについて、できるだけ平易な言葉で語ろうとした本。対象者としてはルールがわかる、くらいかなあと思う。スポーツとかでも、ルールを全く知らないが見ている層(将棋界でもこういう人たちがわりと増えたようになったと思う)というのは存在するけれど、そういう人にはちょっと難しい内容もありそう。

 

10年近く前の本なだけあって、将棋界を取り巻く状況は本の内容からかなり変わっている。コンピュータソフトはトッププロに少なくとも匹敵・或いは凌駕するような存在になったし、女流棋士は凄く強くなった。奨励会三段(四段からプロ)にも女性棋士は二人在籍していて、女性のプロ棋士誕生まであと少しというところまで来ている。

 

そういう様々な今はこうであるということは抜きにして、将棋の楽しみ方はやっぱり普遍で、この本の内容も昔も今も、そして未来も変わらないのだろうなあと思う。

 

 

 将棋というゲームは「ミスを多くしたほうではなく、最後にミスをした方が負けるゲームである」というところがあって、途轍もなく逆転が多いゲームだ。加えて、棋士たちは技術的にはとても狭い範囲で争っていて、精神面が勝負の行方を大きく左右する。だから対局者の間には多くの駆け引きが生まれる。技術的なこともあるし、「こうされたら負け」と思いながらそうと悟られないように自信ありげに指す、みたいな話もある。

 

そういう一対一の競技らしい駆け引きの妙。分からない中指し手を進める対局者の苦しそうな感じとか、最後の最後に逆転を許して投了までになんとか気持ちを整えようとする感じ。指し手の内容が解説付きなら理解できるようになってくると、少しずつプロの技術力の高さや、踏み込む勇気、諦めない精神力、そういうところが分かってまた面白くなる。

 

そんな将棋の面白さを詰め込んだ本。四章では自身の実際の対局を、そのときはどんなことを考えながら指していたかを書いている。三章まで読まれた方なら、きっと将棋の面白さが伝わるのではないかな、と思った。

 

最後は引用で。娯楽としての将棋観戦はもっともっと広まって欲しいですね。

 例えばプロ野球を見る時。「今のは振っちゃダメなんだよ!」とか「それくらい捕れよ!」。サッカーを見る時。「そこじゃないよ! 今、右サイドが空いていたじゃんか!」「それくらいしっかり決めろよ!」。自分ではできないのはわかっていてもこのようなことを言いながら見ますよね。それと同じことを将棋でもやってもらいたいのです。
「それくらい捕れよ!」と言いはしますが、実際に自分がやれと言われたら絶対にできません。「しっかり決めろよ!」も同じで自分では決められません。将棋もそんなふうに無責任で楽しんでほしい。

頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書)

頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書)

 

渡辺二冠は文章も上手で、将棋の解説も非常に明晰な聡明な人ですが、私生活では変な人。ぬいぐるみ好きで、嫁にもう増やすなと言われているほど大量に持っていて、しかもそれぞれ名前も血縁関係も誕生日も設定されているんだとか。ちなみに三十代男性。

 

読み終わった後にお勧めの動画です。将棋の面白さをライトに楽しめるはず。将棋の中身は難しいですけど、わからなくてもきっと面白い。

ちなみに作中のアイドル間のライバル・友人・その他人間関係みたいなものも、狭いプロ棋士界ではよくあることです。そういう話もおいおいしたい。